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山怪の話 のようです



214 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/28(土) 22:15:52 ID:b0rBlmcM0 [3/27]

ああ、これはかたじけない事でございます。

山の天気には気をつけねばならぬと思うてはおったのですが、
いやまったく、こうも突然降り出されてはかないませぬ。
こうして雨宿りのできる小屋があって幸いでございました。

皆様も山越えの最中に雨に降られたのですか。
ほう、こちら様は行商の方で。
そちらは旅の一座の方々でございますか。それはまた遠くからご苦労な事ですなあ。


私ですか。私めは、しがない隠居の爺でございます。
江戸の方で商いをしておったのですが、三年ほど前に身代を跡目に譲りましてな。
ええ、この山歩きも老後の道楽といった処で。


……面白い話、と申しますと?
ほう、皆様、雨が上がるまでの退屈しのぎに、怪談奇談を持ち寄って、
ははあ、今江戸で流行りの百物語といった趣向ですな。


そうですな。ここでこうして巡り会ったのも何かのご縁かもしれませぬ。
かような爺の与太話でよろしければ、
ひとつ、御披露目致しましょう。

215 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/28(土) 22:16:37 ID:b0rBlmcM0 [4/27]
                 .,、
                 (i,)
山怪の話 のようです    .|_|


217 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/28(土) 22:17:50 ID:b0rBlmcM0 [5/27]
 

とある山中での出来事です。


旅装の若い男が一人、突然の雨で難儀しておりました。
そう、ちょうど今の私めや皆様と同じように、でございます。

男は父親が亡くなったという報せを受け、
奉公先のお店から遠方の生家へと帰る旅の途中でした。

急いでおったので、無理に山を越えようとしたのがいけなかったのでしょう。
雨足はどんどん強くなり、視界まで怪しくなってきた。
じき日も暮れる。もちろん宿など見当たらぬ。


( ^ω^) 「さて困ったお」


笠の縁をぽたぽた落ちてゆく雫越しに、男はため息を吐きました。

219 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/28(土) 22:18:43 ID:b0rBlmcM0 [6/27]

このまま見通しのきかぬ山道を行けば命の危険すらあります。
しかしもはや引き返すことも叶わず、男はとにかく足を前へ出すしかありませんでした。


( ^ω^) 「……おっ?」

どれくらい歩いたものでしょうか。
足元に注意しながら黙々と歩いていた男は、ふと顔を上げて驚きました。
目の前に大層立派な門構えのお屋敷が建っていたからです。

( ^ω^) 「こんな山の中に……こんな屋敷があるものかお?」

男は首を傾げました。
その大きな屋敷の佇まいは、奥深い山にはどうにも不釣合いに感じられましたし、
何だかずいぶんと唐突に目の前に現れたような気もしたからです。


しかし、背に腹は変えられぬと申しましょうか、
男は芯から濡れそぼって寒気が背筋にまとわりつき、
その上疲れ切っておりましたから、多少の違和感などものの数ではございません。

とにかく、その家の門をくぐってみる事にしたのでございます。

222 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/28(土) 22:20:17 ID:b0rBlmcM0 [7/27]

ほう、似たような話をご存知で?
                      マヨイガ
山の中で行き逢う無人の屋敷――迷い家――とあなたの故郷では申すのですか。

ええ、確かに男の見つけた屋敷にも、牛馬や鶏が仰山おったようですな。
草木の植わった庭もきちんと手入れがされていて、
これはかなり裕福な家らしいと、男はいたく感心したそうです。


しかし――その家は無人ではなかったのでございますよ。


( ^ω^) 「もし、どなたかおられませんかお。この雨で難儀しておりますお。
       できれば一晩、軒を貸して頂けませんでしょうかお」

門をくぐり、屋敷の戸をニ、三度叩いてこのように声をかけますと、
するりと戸が開いて娘が姿を現したのです。

美しい娘であったそうです。
あでやかな顔つきながらまだ幼さが残る若い女ごで、
白い肌がよく映える上等な着物を着ておりました。

('、`*川 「……それはさぞお困りでございましょう。あいにく主人は留守にしておりますが、
      それでもよろしければ、どうぞ、中へお入り下さいませ」

娘は伏目がちにそう言って、男を招き入れました。

223 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/28(土) 22:22:26 ID:b0rBlmcM0 [8/27]

外見にたがわず、屋敷の内部もそれは立派なものでございました。

しかも、足を洗う湯は出てくるわ
下女が三人がかりで“お召し物”を清めてくれるわで、
男は始終恐縮しておったそうな。

下女はひょろひょろと痩せていて手足が短く、のっぺりとした顔は井守に似ておりました。
それが一人だけならまだしも、出てくる女皆が皆、そうなのです。
仕事振りは申し分なく丁重でしたが、それが不気味といえば不気味であったと言います。



暖かな座敷に通された男を待っていたのは、これまた大層なもてなしでした。
次々に運ばれてくる膳や御酒。通りすがりの旅人への施しにしては豪華すぎます。

(;^ω^) 「こんなにしてもらって、どう感謝すればいいやら……
       ああ、どうかもう構わないで下さいお。手前は雨さえ凌げれば充分で」

男はすっかり気後れしておりました。

('、`*川 「いいえ、旅のお方。これはほんの気持ちでございます。
      お客人は滅多に来られぬので、わたくしも嬉しゅうございますの」

主人がおりませぬゆえ、何かと不調法もございましょうが――と
娘は酒を手に取りながら、こう首を傾けましてな。
どこか物憂げな、濡れたような瞳で、男を上目に見やるのでございますよ。

どうにも遠慮しきれなくなって、男は杯を手に持ちました。

224 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/28(土) 22:24:03 ID:b0rBlmcM0 [9/27]

人間、如何に気を張っていようと酒が入れば鈍るもの。
男は杯を干すうちに、こんな山奥に住んでおる変わり者なれば、
余所者が珍しいのかも知れぬ、と思うようになりました。

そうして、冷えた身体が十全温まったころ、ふと男の箸が止まりました。
幼子の泣き声が聞こえたからです。どうやら屋敷のどこかに赤ん坊がおるようでした。

( ^ω^) 「奥方――の御子ですかお」

少々言い澱んでしまったのは
奥方と呼ぶには娘が若すぎるように思うたからです。
しかし考えてみれば最初から娘は「主人」と言うておったのですから、訊くまでもない事でした。

('、`*川 「疳の強い子で、乳母に懐かず困っております」

娘はうなずいたんだか何だか、ただ少し頭を傾げて、
曖昧な微笑を浮かべておりました。

そんな話をしている間にも赤子の声は引っ切り無しに聞こえてまいります。
どういう疳の虫を飼っているのやら、
狂ったように泣き喚くその声はどんどん大きくなり、ついには――


「ひいいいいいいいっ!」


(;^ω^) 「!?」

225 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/28(土) 22:26:25 ID:b0rBlmcM0 [10/27]

それは紛れもない悲鳴でございました。
赤子の声が一瞬途切れたかと思うと、恐ろしい叫び声が屋敷に響き渡ったのです。

('、`*川 「ああ、いけない。また乳母が」

(;^ω^) 「え?」

呆然とする男を余所に娘がぽつりと呟いた後、
音もなく襖が開いて、腕に何やら抱えた女中が座敷に入ってまいりました。
途端に泣き声がいっぱいに広がって、どうやらおくるみに包まれた赤子を抱いてきたようでした。

娘がふらりと立ち上がって女中から赤子を受け取ります。

不安にかられていた男はその女中の顔を見て――ぎょっとしました。

(;^ω^) (な、なんだおあの顔。ありゃまるで蟇だお)

ええ、そりゃあ馬面だのなんだの、生き物に「似た」ご面相なら珍しくもございませぬ。
先刻の下女達も皆井守のような顔をしておりましたが、
けれどもその女中ときたら、口がこうがばりと裂けて、大きな目玉がうんと離れた処にあって、
本当にまるで蟇が着物を着て歩いているようだったのです。

この屋敷は普通ではない。
男はあらためてそう思い、愈々薄気味悪くなってまいりました。

227 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/28(土) 22:29:47 ID:b0rBlmcM0 [11/27]

('、`*川 「申し訳ございません。わたくしが抱かねば治まらぬようでございます。
      お見苦しいでしょうがご容赦下さいませ」

女中が下がり、子を抱いた娘がそう言って振り返った、その刹那、
男はヒッと息を呑みました。

何故って、そのおくるみの処々が真ッ赤に染まっていたからでございますよ。
それはどう見ても血の染みでございました。

(;^ω^) 「お、おおお奥方、そ、それは、あ、あ」

わなわなと震える手で男が『それ』を指差すと、娘は悲しそうな顔をして、

('、`*川 「乳母には可哀想な事を致しました」

と言うのです。

男には意味が判りませんでした。
ただ非道くおぞましい事のように聞こえました。

228 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/28(土) 22:31:25 ID:b0rBlmcM0 [12/27]

('、`*川 「わたくしは、元は庄屋の娘でございました。
      小さな村で、特に不自由も感じず平穏に暮らしておりましたが、
      ある時突然余所へ移る事になったのです。わたくしが十二、三のころでした」

血まみれの、それでも泣く事は止したらしい赤子を抱いた娘は
おもむろに座敷に座り直し、ぽつりぽつりと語り始めました。
語ると言っても男の方は何が何やら判らぬ面持ちですから、独り言のようなものです。

('、`*川 「確か、親族の間で何やら一悶着あった末の移住であったと思うのですが、
      何分小娘でしたから、詳しい事情は覚えておりませぬ。
      とにかくわたくしたちは村を出ました。そうして、一家で山を越えようとして――」

娘はまた目を伏せ、悲しそうな顔をしました。

      ・ ・ ・ ・
('、`*川 「もののけに襲われたのでございます」


(;^ω^) 「も……ものの、け?」

('、`*川 「はい。古くからこの山に棲むという、世にも恐ろしい妖怪でございました。
      可哀想に、兄弟たちは逃げる間もなくたべられてしまった」

頬を引きつらせる男に娘は淡々と答え、男は息もしたくないような気になりました。
この山、と娘は言ったのです。

230 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/28(土) 22:33:44 ID:b0rBlmcM0 [13/27]

('、`*川 「泣き叫ぶ母も、母を守ろうとした父も、皆頭からたべられてしまいました。
      わたくしはそれをただ見ている事しかできなかった。
      ぱっくりと口をあけた妖怪の大きなあぎとが赤くて、なんだか妙に鮮やかで……」

娘はあまりの恐怖に指先ひとつ動かせなんだ。
それから、家族を皆呑み込んでしまった妖怪がゆるりとこちらを見たので、
ああ自分もたべられる、と娘は思ったと言います。

('、`*川 「ところがもののけはわたくしをたべませんでした」

(;^ω^) 「な……何故」

('、`*川 「さあ、何故でございましょうね。何故そう思ったのかわたくしには判りませぬが、
      もののけはその時こう言ったのです。
      ――おお、これは何とも好い女ごじゃ。食うのは止そう、獲って帰るとしよう――」

(;^ω^) 「な……」

男が絶句してしまったのも道理でございましょう。
その独白は、それはあまりにおぞましい事を予期させるものでございましたから。

男の心中を察したのか、娘は静かにうつむいて、

('、`*川 「わたくしの主人は、その時のもののけにございます」

そう、自ら口に致しました。

231 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/28(土) 22:37:55 ID:b0rBlmcM0 [14/27]

('、`*川 「何がそんなに気に入ったものか、怯えて固まるわたくしを屋敷に連れ帰り、
      もののけはすっかり嫁を貰った気でいるようでした。
      わたくしは恐ろしくて悲しくて、ずっと泣いていたというのに」

男はとても口がきけぬ。
娘は腕の中の赤子を揺すりながら、でも、と淡々とした声で、

('、`*川 「でも、妖怪は妖怪なりに精々優しくしてくれた。
      幾年も共に過ごし、ずっと妻として扱われるうちに、いつの間にかわたくし自身も
      自然と妻であるかのような心持ちになっていたようでございます。
      こうして子も授かりました」

たとえあやかしの子であろうとも、我が子は我が子にございます――
と娘はそう言って、何とも言い難い情に満ちた目で
赤子を見つめるのでございました。


男はその娘の目を見て、
今にも逃げ出そうとしていた己の足をどうにか押さえ込みました。

(;^ω^) 「ひ……人であろうとなかろうと、は、腹を痛めて産んだ子には違いありませんお。
       過去にそれだけの事がありながら我が子愛しと抱けるなら、
       母の愛とはそれ程までに深きもの……という事でございましょう」

233 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/28(土) 22:39:38 ID:b0rBlmcM0 [15/27]

娘の語り口は応答を求めていた風ではありませなんだが、
ただ何か言わねばと男は思うて、
仰け反り崩れた姿勢をようよう正し、しどろもどろにそんな事を言いました。

('、`*川 「……お優しゅうございますのね」

すると娘は顔を上げ、男の目を正面から見て、
はじめてこの年頃の娘にふさわしい、柔らかな表情を浮かべました。

(;^ω^) 「い、いや。むしろこんなに世話になっておきながら、失礼を致しましたお。
       手前ごとき何を言う資格もありませんが」

('、`*川 「いいえ、今日この日にあなた様をお招きして、
      心根のお優しい方と判って本当に良うございました。本当に――」

     ・ ・ ・
主人が本当に留守で良かった――と、娘は言いました。


(;^ω^) 「……えっ?」

234 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/28(土) 22:40:48 ID:b0rBlmcM0 [16/27]

('、`*川 「夫が留守でなかったら、それでなくともここにいる間に夫が帰ってきたならば、
      絶対に逃げられませぬ。
      まず間違いなく、今宵この膳に乗っていたのはあなた様でありました」

(;^ω^) 「え? え」

('、`*川 「申し訳ございません。雨の日は旅人が迷い込んでくる事が稀にございますゆえ、
      そうした事があったら、手を尽くしてもてなし屋敷に留めて置くようにと
      主人に言いつけられておりましたの。……だって、

      だってわたくしをたべないのなら、『別のもの』をたべねばなりませんでしょう?」



(;^ω^)


男は数瞬、空洞となり、


(;゜ω゜)


そして氷の塊を背筋に落とされたように、にわかにぞォッと致しましてね。
気を失わずにいられたのが不思議な程でございました。

235 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/28(土) 22:42:39 ID:b0rBlmcM0 [17/27]

その時、娘が抱いていた赤子がもぞもぞと身動ぎ致しました。
実を申せば、それまで男には血染めの布地しか見えておりませなんだ。
赤子の顔は一度も見えていなかったのです。

小さな手がまず見えました。
そして全体が蠢いて、おくるみがずり落ち、あらわになったその姿は……

(;゜ω゜) 「うっ」


……それは、何と申せばよいのでしょうなあ。

まぶたのない丸い小さな目。
白っぽい肌色のぬめぬめとした膚には鱗が不規則に並び、
のたくる足は一本のみであたかも蛇の尾の如く。

ええ、それはまぎれもなく、化け物でございました。

赤子は両目をきろりと光らせて男を見た。
そして耳まで裂けた口をぱっくり開き、
鮮やかに赤いあぎとを見せて、再び狂ったように泣き始めました。


(;゜ω゜) 「う、っ……うわああああああああああああああああああッ!!!!」


男は今度こそ肝を潰して悲鳴を上げました。

236 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/28(土) 22:45:28 ID:b0rBlmcM0 [18/27]

('、`*川 「この子ももう、乳より人の血を欲しがります。
      我が夫は餓狼をも一呑みにする大水蛇なれば、
      その性を継いだのでございましょう。乳母をもう三人も喰い殺してしまいました」

蒼白になった男を見て
娘は少しばかり悲しそうな顔をしましたが、それだけでございました。

もののけと長く過ごしすぎたのでございましょうなあ。
娘も、もはや人とは呼べぬ何かになってしまっていたのかも知れませぬ。
哀れな事でございます。

(;゜ω゜) 「ああ、あああああああ!!」

('、`*川 「丁度、雨も上がったようでございます。
      この屋敷のものは皆、大水蛇に仕える、小さき生き物共の化身です。
      そう早くは走れませぬ。どうか、お早くお逃げ下さいませ」

(;゜ω゜) 「あああああああああああああああああ!!!」


男ははじかれたように座敷を飛び出しました。

赤子を抱いたまま丁寧に頭を下げる娘が最後にちらりと見えたような、
やはり気のせいであったような。

237 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/28(土) 22:50:45 ID:b0rBlmcM0 [19/27]

井守。
蟇。
巨大な水蛇。
異形の赤子。

そんなものが次々頭に浮かび上がり、
浮かんでくるたびにそれが後ろから追いかけて来るような気がして、
手足を滅多矢鱈に振り回し、訳の判らぬ事を叫びながら
坂道を転げ落ちてゆく小石のごとく男は駈けました。

娘の言うとおり雨は上がっておりましたが、
月明かり一つ無い真っ暗な山、雨のせいでぬかるんだ道なき道を
もつれる足で一体どう走ったのやら。
よくもまあ死ななかったものでございますよ。


男は翌朝、麓に倒れている処を里の村人に助けられました。
獣道を抜けた処で力尽きたのでございましょう。
その後、高熱を出して三日三晩寝込み、生死の境をさまようたそうでございます。

239 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/28(土) 22:53:44 ID:b0rBlmcM0 [20/27]
 

……サテ、爺の話はこれにて仕舞いにございます。お粗末様でございました。


え?
その屋敷を見てみたい?
ほっほ、それはまた、ずいぶん豪胆なお方でございますなあ。


いえいえ、決して勿体をつけている訳ではのうございます。

ただ男は先に言うた通り、
行きは雨の中を足元ばかり見て進んできましたし、
逃げる時も真っ暗闇を滅茶苦茶に走っておりましたので……。

しかも、高熱で何日も朦朧としておったものですから
前後の記憶がどうにも曖昧で、
それに一口に山と言うても、故郷に至るまでに通らねばならぬ山は
一つだけではございませぬ。
どの山のどの辺りだったか、というのは、実の処男も定かではないのでございます。

242 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/28(土) 22:57:10 ID:b0rBlmcM0 [21/27]

それから男はどうしたかって?

どうにか一命を取り留めて、江戸にも戻り、奉公を続けたという事ですよ。
怪しき噂のある山には金輪際近寄るまい、と固く決意し、
あの恐ろしい夜の事はつとめて考えないようにしていたやもしれませぬ。


ただ、人間、忙しくしているうちはそれで済むやも知れませぬが、
歳を取って日頃の雑事が減ってまいりますと、
若い時分の気がかりがふとした折に甦ってくるものでございます。

恐怖が薄れる程の年月が経ち、
しかしあの時の屋敷の事がどうしても忘れられずにいたら、
男はやはり山に入ってみたくなるのではないでしょうか。


屋敷を見つけたらどうするか、でございますか。
大立回りの化け物退治? まさか、滅相もございません。

屋敷を見つけたらこうしたいとか、
娘に会ってどうしたいととか、そういう事ではありますまい。

知りたいだけでございましょう。

男は老いて、ただ知りたくなったのでございますよ。

人ならざるものの隠れ家と、あの時の娘がどうなったのかを。

244 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/28(土) 22:58:19 ID:b0rBlmcM0 [22/27]

……これは爺の勝手な考えなのですが、
私は、あの娘は今でもあの屋敷に昔と変わらぬ姿でいるのではないかと、
そう思うておるのでございますよ。

胸に哀れな我が子をい抱き、いつまでも娘の姿のまま、
困ったような悲しいような顔をして
雨と共に迷い込んでくる旅人を迎えておるのではないかと――……


いやいや、これはただ単に私がそう思うただけの事でございます。
本当の事は誰にも判りませぬ。


それに、年老いた男の記憶は更に薄れ、足腰も弱っていましょうから、
恐らく自分でも見つけられるとは思うておらぬでしょうな。
ほんの道楽程度の山歩きでございましょう。

どこかで聞いたような話? はて、爺には何のことやら。

245 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/28(土) 23:00:23 ID:b0rBlmcM0 [23/27]

ああ、歳を取ると話が長くなっていけませぬ。
つまらぬ話につき合わせてしまいました。申し訳ない事でございます。
楽しんでいただけたなら何よりで。ええ、私も楽しいひと時でございましたよ。


おや、いつの間にやら雨も上がったようでございますな。

それでは、私めはこれにて失礼致します。
日暮れ前に里に戻りませんと、
人の領分から離れた場所というのは、ほんに恐ろしゅうございますからなあ。



皆様も、山中立派なお屋敷にもしも行き逢いましたなら、
くれぐれもお気をつけ下さいませ。

246 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/28(土) 23:01:38 ID:b0rBlmcM0 [24/27]
                  (
                  )
                  i  フッ
山怪の話 のようです    .|_|

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