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忘れられない数え歌のようです


176 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 23:27:55 ID:VIMYyQfE0 [3/11]
四十七本目


忘れられない数え歌のようです

  .,、
 (i,)
  |_|


昔々のこと。

傷だらけの乙女を見送った男はいつまでも、橋の欄干から動こうとはしなかったという。
赤い紙きれが届いても、国民服が刃を向けても、だ。



177 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 23:29:55 ID:VIMYyQfE0 [4/11]
古ぼけたアパァトの階段は、どんなに気を使っても歩くたびにかんかんと鳴る。
自然と隣人たちの生活スタイルが分かってしまうようなアパァトだった。

だった、というのも、近くにできた格安の賃貸マンションのせいで
住んでいるのは大家のばあさんと私だけになってしまったのである。

昨日までは。

ポケットから取りだした鍵でそっと玄関のドアを開けると、今朝残してきたのとそっくり同じ部屋が視界に入る。
いつもどおり殺風景だが、そこそこ清潔な板張りの廊下と8畳の畳。
古いが、そこそこの広さが気にいって、私は未だにこのアパァトに厄介になっている。

いつもどおりの座卓、その上のノォトパソコンと、小さな座椅子、畳の上に散らばったクッション。

ただいつもと違うのは、部屋の隅に今朝と変わらず座り続ける、薄汚れた男がいることだ。

ばたんと音を立てて閉じたドアに、その男はこちらを向いた。
緩慢な動きで首をかしげると、へらと笑う。

( ,,^Д^)「おかえりなさい」

おかえり?

この部屋の住民は私だ。
間違いなくこの私だが、彼はまるで自分がこの部屋の主であるかのようにゆったりと。
そうして私に笑いかける。

178 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 23:33:26 ID:VIMYyQfE0 [5/11]
返事をしないまま突っ立っている私に、彼は少し不思議そうな顔をした。

(#゚;;-゚)「ただいま」

( ,,^Д^)「はい、おかえりなさぁいませ」

へら。

緊張感もなく笑うこの男は誰だろうか。
もたもたとスニィカァを脱ぎながら考えるが、私にはさっぱりわからない。

この、私の部屋に現れた男が誰なのか。
どこから来たのかもわからない。

それは出身地を知らないというわけでもない。

いつの間にかここに現れた男。

否、それは正しくはないのかもしれない。

昨晩のことである。
私がいつものようにノォトパソコンを開いて興味もない掲示板あさりをしていたころ。
日付が変わってしばらく後だ。

ふと、締め切っていた窓のカァテンがふうわりと靡いた。
玄関に目をやる。鍵だけでなく、チェインもしっかとかかっている。
換気扇のスイッチを確かめる。切れている。

出し抜けに中にぎっしりと本を詰め込んで隙間もない筈の押し入れがカラリと開いた。

179 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 23:36:06 ID:VIMYyQfE0 [6/11]
( ,,^Д^)「やあ、良い夜で。お晩さぁまです」

(#゚;;-゚)「……こんばんは」

そうして彼はここにいる。

すわ、変質者に殺されてしまうのかとも思ったが、彼は部屋の隅のクッションに腰を下ろすと
まるで石地蔵のように動きを止めた。

そのまま私は傍らの万年床で眠り、朝を迎え、アルバイトに出かけ、また戻ってきた。

石地蔵はようやく腰を上げ、そうかと思えば冷蔵庫の麦茶などくんで私に差し出した。

( ,,^Д^)「外はお暑うございまぁしたか」

(#゚;;-゚)「はい」

表面に薄い曇りを付けた麦茶のグラスは大層冷たく、それを受け取るときになって初めて
私は彼が白い手袋を付けているのに気がついた。

一気にグラスの中身をあおると、冷たい物が胃袋に流れ込むのが分かり
同時に米神がつきんと痛んだ。

(#゚;;-゚)「ふぅ」

ごちそうさまとグラスを返すと、彼はにこやかにそれを受け取り素早くすすいで棚に戻した。

(#゚;;-゚)「……」

180 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 23:39:51 ID:VIMYyQfE0 [7/11]
( ,,^Д^)「何か御用がござぁいますか」

へらりと笑って首をかしげる男は部屋の隅のクッションに腰をおろしていた。

いいえ何も。
私は彼を観察した。

背は高くもなく低くもない。しかし背丈の小さい私からは見上げるようだ。
太ってもいないし痩せてもいない。しかし脂肪も筋肉もない私よりもがっしりとしている。
楽しそうでも愛想笑いでもない。しかし傷だらけの顔を前髪で隠した私より生き生きとした表情をしている。

( ,,^Д^)「それぇは、ようございました」

えへ、えへ、と変な調子で笑う男は、何だか懐かしいような気がした。
ただ幸せそうに笑っている。
それがどうにも、怖かった。

狂人なのだろうか?
しかし、それも違うように思う。

一度、何をしているのかと問うと、ただ待っているのですとだけ答えた。

私は出来合いの惣菜で飯を済ませ、風呂に入り、いつもどおり掲示板をあさって、寝付いた。
その間、男は水の一杯も飲まず、便所にも行かず、飯粒一つも口にせずにただ座っていた。
何だか監視されているような気分で、柄にもなく日付の変わる前に眠った。

さて、夜中にぱちと目を覚ますと、何やら声が聞こえてくる。
時刻は昨日、男が現れたころである。

181 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 23:44:47 ID:VIMYyQfE0 [8/11]
歌のような、経のような響きだった。
何やら童謡のようですらある。


イチかけ 二かけて サンかけて

シかけて ゴかけて ハシをカけ

ハシのランカン テをカザし

ハルかムこうを ナガめれば

ジュウシチハチの ネェさまが

ハナとセンコウ テにモって

ネェさん ネェさん どこイくの

ワタシは トオくの フルサトの

ジガイなされた トウサマの

おハカマイりに マイります

ココにモドるの マっていて

モドればアナタの ヨメにユく

182 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 23:47:47 ID:VIMYyQfE0 [9/11]
良く聞けば、そうも聞こえる。
のろりのたりと這うように遅い。

その声は確かに、傍らで座り通しの石地蔵の声だった。

そして、私はまた眠った。

翌朝。
目覚めてすぐに冷えた麦茶を一杯飲み、私は家を出た。
石地蔵はまだかちんこちんになったままで、私に行っていらっしゃいませとだけ言った。

今日はアルバイトは休みであった。

私は山へ向かう電車に乗って、故郷を目指した。
一時間かからないうちに電車を降りる。

くらくらと暑い日に山道の間の坂を上り、途中の店で花と線香を買った。

真昼の霊園は盆過ぎともあって、枯れた仏花が並んでいた。
荒んでいる。

その一番はじの、一番みすぼらしい墓が私の父の墓であった。

おざなりに線香を灯し、花を投げ込んで、汲んできた水をざざぁとかけてやった。
ああこの男が首さえ吊らなければ、私はあの女に殴られる十年を過ごさなかったものを。

墓石に唾を吐きかけて、くるりと踵を返す。

184 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 23:50:15 ID:VIMYyQfE0 [10/11]
( ,,^Д^)「御用はぁ御済みですかな」

石地蔵が立っていた。

見上げる背丈に、がしりとした腕を私に差し伸べる。

(#゚;;-゚)「もうお会いすること叶わぬのではと思うておりました」

私の口から今まで使った事もないような言葉がつるつるとこぼれおちる。

( ,,^Д^)「貴女のためなら、ちとせも紙の一重と変わりませんとも」

体の自由を奪われたように彼の懐に飛び込むと、それは冷たく。
昔首を吊ったままの父親にすがりついた時のことを思い出させた。

(#゚;;-゚)「仕合わせものでございます」

ふと、あの女に殴られどおしでも流れなかった涙が流れた。

十年ぶりのひとしずくは男の白い手袋にすぅと染み込んで
続いてわぁと張り上げた私の泣き声は、もはや墓にはこだますることもなかった。

185 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします[sage] 投稿日:2010/08/27(金) 23:51:48 ID:VIMYyQfE0 [11/11]
翌日のこと。

近くの神社の木陰で、そっと社のほうに手を合わせる、
婚礼装束の男女の姿が朧に見えたという者もあったという。

女は傷だらけの顔で、それは幸せそうに微笑んでいたとも言われている。


忘れられない数え歌のようです


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